11式自作塗装ブースの記事を見た方から「11式を譲渡してほしい」との要望がきっかけで製作することとなった12式。11式で得た知識と反省を活かし、徹底的に機能性を高めた設計にしました。
12式自作塗装ブース(収納時) 12式の製作ポイントは次の通り。
・市販品の3倍以上の吸気能力
・吹き返しの少ない構造
・高い収納性 オールインワンパッケージ
・LED照明
・分割式窓枠パネル
・カッコイイこと!
実は依頼人はエアテックスのブラックホールを持っているということだったので、ブラックホールの3倍の能力を持たせることを最低ボーダーラインに設定しました。
■超強力DCファンを採用 市販品を凌駕するパワーを持たせるためには半端なシロッコファンでは力不足。かといってパワーのあるシロッコファンでは大型になりすぎだし、何より高価格になってしまうのでアウト。市販の一般換気扇は風量は多くていいのだけど、空気を送り出す静圧が低いので今回の塗装ブース計画にはあまり適当とは言い難い。
そこで12式では超強力DCファンをチョイスしました。
一般換気扇と同じくらいの風量ながら静圧は6〜7倍! 静圧が高いので高気密住宅や高層のマンション、風の強い場所でも安定した排気が期待できます。しかも断然コンパクトなので塗装ブースの用途にピッタリ! このDCファンなくして12式の完成はあり得ませんでした。
・一般換気扇(羽根径20cm)との比較 | 東芝 VFM-20H2 | 12式 採用DCファン |
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同率縮小比較 | | |
サイズ(W×H×D) | 300×320×149 | 172×172×51 |
消費電力 | 21.5W | 31.2W |
最大風量 | 504m3/h | 510m3/h |
最大静圧 | 33Pa | 243Pa |
音圧レベル | 32dB | 55dB |
重量 | 2.1kg | 780g
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■設計 11式は基本的に押し出し型ですが、12式はファンを出口側に設置する吸い出し型になります。吸い出し型の利点は吹き返しのない安定した排気と風量が多いところ。また、ファンが塗装ブース本体から離れているので騒音が小さいという点も挙げられるでしょう。
逆にデメリットは塗装ブース本体とは別にファンユニットを窓側に取り付ける形になるので収納性と設置性が極めて悪くなるところ。市販品で吸い出し型が存在しないのはこの点がネックとなっていると考えられます。
12式はこの吸い出し型の欠点をクリアすべく設計。まず、窓枠に取り付ける窓枠パネルを分割式にして塗装ブース本体に収納できるようにしました。窓枠パネルは必要最低限の横幅にします。
依頼人の部屋のサッシは2m近い高さがあるので窓枠パネルは5分割。窓枠パネルの接続はジョイントボードを差し込むことで行います。ロック機構がないので気を付けないと外れちゃうのが難点。(汗 ロック機構を取り付けるスペースがなく、強度が足りないとすぐ壊れてしまうので設置が難しいです。ここは課題ですね。
設計図。今回はこの段階でトコトン煮詰めました。
11式は低コスト重視だったのでダンボールを用いましたが、12式は強度と耐久性、質感を高めるために全面MDFボード仕様にしました。
本体ボディには9mm厚と5.5mm厚のMDFボード。
窓枠パネルには4mm厚のMDFボードとシナベニア。MDFボードは水に弱いので外側にシナベニアをチョイスしました。
カットはホームセンターのドイト南砂店工作室に頼んだのですが、本体用のパネルを指示書より30mmも短くカットしてくれて余計な苦労をするハメになりました。不足分を接着し、つなぎ目を目立たせないように解きパテで補修。ヤスリがけしたあとにサーフェイサーでMDFボードとパテの境界線をなくします。MDFボードとパテ部分とでは塗料の吸収量が違うのでサーフェイサーを吹かないと見た目が変になっちゃうんですよ。
解きパテで段差を補修したあとにヤスリがけ
サーフェイサーを吹いて塗料の吸収量を均一にします
ドイト南砂店工作室のいい加減な仕事のせいで余計な作業を強いられました。(怒
ホームセンターの工作室はもう信用できないので細かいカットは自分でやろうと思い、長年欲しかったテーブルソーを買っちゃいました。
E-Value 木工用テーブルソー255mm [ETS-10KN]
これで木材をキレイにカットすることができるようになりました♪ ただ、細かいところの作りが甘いので精度の高いカットをするためには色々手を加えてやる必要があります。
■塗装とマーキング 塗装は11式と同じくつや消し黒。オーナーさんの希望はマシーネンクリーガーをイメージする色とのことだったのですが、ウェザリングを施さないとマシーネンクリーガーのイメージにはちょっとならないかなーという危惧があったので無難につや消し黒となりました。
せっかくなのでデカールにマシーネンクリーガーのロゴをプリントしてみました。
例によってデカールはアルプス電気の
MD-5500とAdobe illustrator、クリアデカールの三種の神器で作成します。
■配線 今回は24VのACアダプターでファンもLED照明も動かすので回路らしい回路は作っていません。ACアダプターとファンの間にスイッチとコネクタを挟んだだけの簡単構造。電気に詳しくない方でも小学校の理科の知識があれば組めると思います。
左側にあるのがACアダプター。右側はスイッチとRCAジャック。
ACアダプターのコードはセンタープラス。中心の線がプラスで周りがマイナスになっています。DCファンは赤い線がプラスで黒い線がマイナス。接続すれば回ります。簡単ですね。DCファンに付いている黄色い線と茶色い線はセンサーと回転速度のためのもので、今回は使わないので切り取ってしまって構いません。
■フィルター フィルターはペーパーフィルターとハニカムフィルターの二段構え。ペーパーフィルターは100円ショップで売っているものを使ってコスト削減。吸気力を極力落とさないようにペーパーフィルターをDCファンの至近に設置。吹き返し防止を主な目的としたハニカムフィルターは塗装エリア正面に設置しました。
ペーパーフィルターはカセット式になっていて詰まり具合が簡単に確認できます。持つ所はペイントが剥げやすいのでポリプロピレンボードを貼り付けて対処(我ながら細かい配慮)。 ペーパーフィルターカセットは分割式で、フィルターの設置方法にバリエーションを持たせました。
・ウェーブセット(波状設置) ペーパーフィルターを波状に設置してフィルターの表面積を増やし、詰まるまでの時間を延ばします。掃除機やエアコンのフィルターなどで見られる方法です。
アイディア的には良いと思うのですが、ペーパーフィルターをセットするのがちょっと面倒だったり…(苦笑
・フラットセット(平面設置) ペーパーフィルターを平面状に設置します。ウェーブセットより早く詰まってしまいますが、設置は容易。
内側にマジックテープが貼ってあるので簡単に固定できます。
・スポンジフィルター 中にスポンジフィルターを挟み込みます。未検証。
タミヤのペインティングブースII 交換フィルターなどを挟み込んで使うことも可能(だと思います)。
塗装エリア正面に設置したハニカムフィルターはクレオスの「Mr.スーパーブース 交換用ハニカムフィルター」を流用。ハニカムフィルターは塗装ミストを付着させるというより、吹き返し防止ブロックのような働きをします。
カッターで横幅を432mmにざっくりカット。縦はちょっとキツめになりますが、何回か装着している内に丁度良い具合になります。
■吹き返し防止設計 塗装ブースの最大の懸案は吹き返しの発生でしょう。吸気力の弱い塗装ブースは吸気量以上の塗装を吹き付けられた場合、吸い込めなかった分がすべて吹き返しとなってしまいます。また、吸気力があってもストライクゾーンを外れた塗装ミストは筐体に跳ね返り吹き返しとなってしまいます。
ストライクゾーンであれば吸い込みますが、外れると吹き返しとなってしまう。
12式は厄介者であった吹き返しを逆に利用することですべてストライクゾーンに持って行ってしまう構造になっています。メーカー品にもない新発想! 超強力DCファンの吸引力で根こそぎ吸い込みます。
内部に設置した誘導板が威力を発揮。11式で得た教訓です。
■窓枠パネル 12式の大きな特徴である窓枠パネル。窓枠にハメることで外気を遮断し、冬の冷気や夏の熱気を室内に進入させることを防ぎます。収納性を考え5つに分割できるようにしました。
窓枠パネルは小さい板(ジョイントボード)を差し込むことで接合します。
一番上(HIGH)と下(LOW)は窓枠にはまるように専用の形をしていますが、中間の3枚(MIDDLE)は互換性があるので順番を変えて配置することが可能です。
設置状況に応じてDCファンユニットの高さが変えられます。
※オーナーさんの窓枠とはサイズが違うので高さが少し合ってません。
分割式なので高さの低い窓枠にも一応設置することが可能。窓枠パネルは簡単な構造なので足りない部分を自作することもできるでしょう。
窓枠パネルはサッシに挟み込む構造。サッシと同じように上をミゾに入れてからから下をレールに乗せてください。DCファンの回転による振動を危惧していましたが、思っていたよりシッカリ固定されるので心配は杞憂でした。
■LED照明ユニット 塗装作業時に塗装状況を確認しやすいようにLED照明を取り付けました。LEDはコンパクトに設置できるのでオススメです。ファンとは別回路になっているのでファンを止めても消灯することがなく作業に便利。
33000mcdのLEDを48球使用。寿命を延ばすためあえて電流を低くし明るさを抑えました。ベースのアクリル板にLEDと共に抵抗を配置したので別に回路を作らなくて済みコンパクトに仕上がりました。故障しても修理しやすい設計にしたのは言うまでもありません。
コンパクトなLED照明ユニット
ハニカムフィルターの手前上部にあるのがLED照明ユニット。本体内部に白いカッティングシートを貼ることで反射光も効率よく照明として再利用します。戦車の内部塗装と同じ考えですね。カッティングシートはプラカラーで汚れても拭き取ることが可能。
LED照明ユニットの上部カバーにはスリットを施し熱を逃がします。少し温かいので塗装したパーツをこの上に載せればちょっと乾きが早くなる…かもしれません。(笑
このスリットはジャンク液晶テレビの筐体から流用。こんなこともあろうかと思って取っておきました。(笑
照明装置を装備している市販品にエアテックスの「
ブラックホール ライトハウス SPB-02」がありますが、これはちょっと素人設計じゃないかなー。
エアテックスのブラックホール ライトハウス
取って付けたような小型蛍光灯。光が直接目に入るので目の健康に悪いです。眩しくて作業に支障が出ます。小さすぎるので照度が足りないです。ファンと連動しているのでスイッチを切ると照明も消えてしまいます。ボディの内部も黒いので暗いです。ないよりマシかなって程度の照明。
■設置 設置した状態です。
ダクトの長さは収縮時43cm。伸ばすと3倍くらいになります。
作業台は汚れても拭き取れるようにラミネート加工したものを貼り付けていますが、清掃するのも面倒だと思うのでA3のコピー用紙を敷くとよいでしょう。
丁度A3サイズ。
■12式自作塗装ブースの構成 12式自作塗装ブースを構成するパーツです。
すべて本体に収納できます。
■セッティング セッティングの手順を動画にしてみました。
このあとはコードとダクトを接続してセッティング完了です。
本体とDCファンの接続はRCAコードで行います。
■使い勝手に配慮した工作・操作しやすいスイッチレイアウト 頻繁にON/OFFするファンスイッチは右端にレイアウトし、スイッチ操作の少ないLED照明のスイッチを左側に設定しました。
・持ち運びに便利なダクト取り付け口 取って代わりになるようになっています。十分な強度を持ち、重量バランスもよいので持ち運びに便利。
ダクト取り付け口に手を突っ込んで持ち上げます。重いです。(汗
・錆び防止キャップ RCAジャックは長期間使用しないと錆びるので錆び防止キャップを付けます。
長期間使わない時に付けるようにしてください。
・ラベル DCファンの設置ですが、ネジ穴の関係でラベルが45°傾いた状態になったのでオリジナルのラベルを作って貼り付けました。
黒くして精悍な感じにしました。 DCファンも故障に備えて簡単に交換できる構造になっています。
■収納手順 12式の売りはオールインワンパッケージであるということ。収納の困難な吸い出し型をいかにコンパクトに収納させるか腐心しました。窓枠パネル、ダクト、DCファンユニット、フィルター、コードをすべて収納可能な構造になっています。動画を用意したのでご覧下さい。
ギリギリの設計をしたので手順通りにしないとうまく収納できません。
ポイントはダクトの収納。ハニカムフィルターストッパーより奥まで押し込みます。
■吸気力テスト 肝心要の吸気力はいかほどなのか? 一般的な二枚重ねのボックスティッシュを何枚吸い付かせることができるかテストしてみました。テスト環境は通常使用時と同じようにペーパーフィルターをウェーブセット(二枚重ね)にして実施しています。
少なくとも30枚は吸い付かせる性能があることがわかりました。ストライクゾーンも広いので端の方でもそれなりの吸気力を誇ります。オーナーさんの話しではブラックホールは三枚しか吸い付かなかったらしい。
ネット上の情報ではGSIクレオスのMr.スーパーブースはストライクゾーンで12枚だとか。
■11式自作塗装ブースとの比較 11式とのツーショット。
収納時。11式は3ピース構造。
展開時。
こうして見ると11式のコンパクトさがわかりますね。
■総括 11式の製作を終えてからもっといいものができないかと思って設計したのが今回の12式です。11式改により12式の必要性を感じなくなったのでこの設計図はお蔵入りかなと思っていたところに製作依頼がきたので、作ってみたかったということもあり利益度外視で引き受けた次第です。
市販品の一番いいヤツが2万円で買えるのに、あえて未知数の12式を選んでくれたオーナーさんの期待に応えようと頑張りました。(笑
ストライクゾーンの吸気力は11式に軍配が挙がりますが、吹き返しのなさでいえば12式の方が優れています。質感的にはダンボール製の11式を凌駕。見た目も極力シンプルになるようデザインしました。蓋パネルの固定方法も見た目を重視して磁石固定式にしたんですよ。電源コードは直付けではなく分離式のソケット接続。直付けの方がソケット不要で安上がりなのですが、コードがぶらぶらするのが嫌いなのでこうなりました。
全体的にうまくいったと思いますが、それでも総重量10kgは重すぎですね。;;; 窓枠パネル(2kg)、DCファンユニット(2kg)、本体ボディ(4.5kg)に使った木材が重量増の原因。窓枠パネルは強度的に仕方ないと思いますが、本体とDCファンユニットはもう少し薄い木材をチョイスすべきでした。もしまた作るとしたら3kgは軽くしたい。あとはDCファンユニットの形状次第で30%くらい吸引力がアップするんじゃないかなーと思ったり。コンピュータでシミュレーションができるワケでもないので作ってみなくちゃわからんのですが。
気づいたんだけど、エアテックスのハリケーンも重量が9.6kgもあるんだね。
背面にそれっぽいラベルを貼り付けました。(笑
スクエア形状なので何かと便利だと思います。
■諸元(DCファン) |
・定格電圧 | 24V DC |
・定格電流 | 1.3A |
・定格入力 | 31.2W |
・定格回転数 | 4,100rpm |
・最大静圧 | 243.0Pa |
・最大風量 | 8.5m3/min(300CFM) |
・音圧レベル | 55dB |
・サイズ | 直径172mm、厚さ51mm |
・質量 | 780g |
・材質 | フレーム/アルミダイカスト、羽根/樹脂成形品 |
・製造国 | 日本 |
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・LED照明 | 5mm砲弾型33000mcd 48球 |
・サイズ | W450×H320×D280(突起物除く) |
・総重量 | 約10kg
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■使用部材・DCファン | 2,800 |
・ACアダプター(24V 1.875A) | 1,000 |
・アクリル板(450×600×2) | 850 |
・シナカットベニア(910×600×4) | 880 |
・MDFボード(910×600×4) | 518 |
・MDFボード(910×450×4) | 268 |
・MDFボード(910×600×9) | 798 |
・MDFボード(910×450×5.5) | 378 |
・クーラーキャップ(100mm) ×2ヶ | 796 |
・アルミダクト(100mm) | 980 |
・プラモール | 120 |
・LED(50球) | 600 |
・抵抗 | 100 |
・ロッカースイッチ ×2ヶ | 100 |
・RCAジャック ×2ヶ | 80 |
・RCAコード | 0 |
・電源ソケット | 95 |
・配線コード | 60 |
・電源コード | 100 |
・ハニカムフィルター | 420 |
・ペーパーフィルター | 105 |
・針金 | 105 |
・カッティングシート | 300 |
・光拡散ボード | 0 |
・ネジ(75×4/4本) | 100 |
・ネジ(20×4/11本) | 100 |
・ネジ(20×3/14本) | 120 |
・木ネジ(10×2/40本) | 80 |
・磁石 | 105 |
・クリアデカール | 400 |
・スプレー(つや消し黒) ×3本 | 1,194 |
・スプレー(つや消しクリア) ×2本 | 796 |
・サーフェイサー | 400 |
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計 | 14,528
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※他にドイト工作室に払った工賃や接着剤、交通費、通販送料等の諸経費が掛かっています。
■使用工具・電動ドリル
・テーブルソー
・+ドライバー
・木工用ヤスリ
・彫刻刀
・ピンバイス
・スパナ
・ニッパー
・鉄工用ノコギリ
・木工用ノコギリ
・ハンダこて
・ホットボンド
・紙ヤスリ
・Pカッター
・カッター
・ノギス
さらにパワフルな後継機に続く。
→13式自作塗装ブース(押し出し型)
1. 無題
こんな自分でも制作できますか。
いろいろ調べて一番いいと思ったので
お返事まちます。